自然な価値を提供する音と映像、そしてスマホ連携はこれからが本番 ーIFA2019レポート5
「付加価値」と呼ばれるものの多くは、利用者に新しい操作や、理解を要求するものが多い。
そういった機能の多くは一部の人にしか受け入れられないで終わる。その機能の価値がわかる、操作方法や使いどころがわかる、そういったことが必要になるだけで、利用できる人が限定されてしまうからだ。
冷蔵庫や炊飯器などの家電はマスプロダクトであり、これからもそういった捉え方が必要だとしたとき、マジョリティが便益を得られるようにすることが重要だ。白物家電には、そういった考え方が伝わる機能がいろんなところに見られた。
IFA2019レポート4で記載したように、洗濯機や食洗器は、そもそもの洗浄能力が向上していることや自動で対象物の状態を判断するようなことで、どんどん利用者のオペレーションを削減している。
このような視点以外で、様々な機器で「音を消す」「音を減らす」機能が付加価値になっているということが目立っていた。

Samsungの洗濯機はいつでも周囲を気にせず洗濯ができる静音性もアピール
ライフスタイルの多様化で夜、掃除機をかける人のための静音掃除機が話題になったのはもう10年以上前のことだ。
洗濯機も同様で、今回のIFAでも静音の掃除機、洗濯機を複数確認することができた。どれもユーザーの操作は不要で、自然と静かに動作するものばかりで、いつものように使うと、うるさくなくて快適に作業ができる。
洗濯機や掃除機は良くあるが、ミキサーのような明らかに大きな音を出す調理家電にも静音機能が搭載されていた。また、換気扇にも静音機能が搭載され始めている。
言われてみれば、日本においても多くの家庭の換気扇が静音になっている。換気扇が回っていることに気付かず、つけっぱなしにしてしまうことも多い。

防音カバー付きジューサーミキサー
このように動いていることに気付かない実態も明らかになってきていることからも、将来的には自動で不要な家電の電源を切るようなマネジメントサービスの需要が顕在化されていくことは確実だ。
現状ではHEMSに、一般的な生活者は興味を持たずとも、それを入れておかなければ、無駄な電力利用が進む、家電の老朽化が早くなるといったことが考えられる。
いくら自動で電力の利用状況がわかると言われても、ベネフィットが実感できなければ普及はしない。
しかし、これからは状況が変わってくるように思えた。

ソニーの密閉型ノイズキャンセリングイヤホン
音を消すという視点では、ソニーのノイズキャンセリングイヤホンには多くの人が興味を示し、実際に試聴をしていた。
これまでのイヤホンの機能アピールは、いかに良い音か、高品質か、ということが競争軸であったが、良い音も周囲の雑音が混じると、高い体験価値は得られない。
このイヤホンは雑音や騒音を消し、純粋に良い音を聴く環境を提供したのだが、もう一つ大きな価値がある。それは、単純にノイズを消し、静寂でくつろぐという体験だ。飛行機や鉄道の中は、何時間も騒音と共に過ごす空間で、実は人体への影響も大きい。静寂になるだけで、ストレスが大きく変わってくる。
音に対して映像市場はどのようになっているかと言うと、テレビの進化は基本的に大画面、高画質化が今でも進んでいる。
その中で今回のSamsungのブースでは非常に興味深いアプローチが3つ見られた。
1つはフレームのデザインやカラーリングを自由に選べるというものだ。
これはさほど珍しくないが、薄型テレビもオブジェとしてかわいいかどうか、という視点も必要な時代になってきているということがわかる。

レトロなデザインで色も選べるSamsungの薄型テレビ
2つ目は壁画になるテレビという提案だ。
これもカラーと近いアプローチだが、「点いている時はテレビ、消えている時はアート」というコンセプトで、テレビをOFFにしている時に黒い無機質な画面ではなく、絵画や写真を表示して部屋の雰囲気を良くするという考え方だ。

テレビの電源をOFFにしている時、アートが表示され空間を演出
3つ目はサイズ可変のテレビだ。
これはなかなかユニークで、画面を小さくする意味があるのかどうかが最初は理解ができなかったのだが、音と同じで、大画面で動きのある映像がずっと表示されていると精神的に「うるさく」感じるというのだ。テレビをつけっぱなしにせず、静止しているアートを表示することもその背景から生まれたものでもあるが、音を減らす市場と同様に映像を減らす市場が見え始めた。

サイズ可変壁掛けテレビ(大画面時)

サイズ可変壁掛けテレビ(小画面時)
画面が可変という視点では、ついにGalaxy Foldに触れることができた。
画面が折り曲げられるスマホだが、外側に約4.6インチの画面、内側を開くと約7.3インチの画面が登場する。内側の大きな画面は分割はもちろん、縦横様々な利用方法ができるようになっている。
スマートフォンに触れているというより、情報量の多いナビゲーション、フレキシブルな電子書籍デバイス、もしくはコンパクトなPC、そういった感覚があった。

ようやく実際に触れることができたGalaxy Fold
LGでも2画面の折り畳みスマホが展示されていて、新たなスマホの形状進化が見られたが、家電が主役のIFAではスマホのハード的な進化よりも、家電リモコンもしくは家電マネジメントツールとしてのスマホが、ようやくバージョン1.0になったような印象を受けた。
これまでのスマホ連携は、コネクテッドがトレンドなので、とにかく家電を繋ぎ、繋ぐ先や用途としてイノベーティブなものがわからないからとりあえずスマホに繋いでおこう、といったものが多かったが、そういった試行錯誤の結果、確信を持って現時点ではスマホをマネジメントツールとして使うことがベストである、という結論に至ったように見えた。

家中の家電を管理できるスマホのUI
AndroidというOSが汎用的であることも背景には見えてくるが、Samsungのブースではあらゆる家電がスマホで状態確認ができ、操作ができるようになっていた。
さらに寝室、リビング、キッチン、書斎などの部屋ごとに設置されている家電の操作はもちろん、状態がわかるようになっていた。スマホでできることはAndroid OSが搭載するものであれば同じように展開ができるため、冷蔵庫に埋め込まれたAndroidでもスマホと全く同じようにSmartThingsで繋がったSamsungの家電は全て冷蔵庫からも操作、管理ができる。

冷蔵庫にもAndroidを搭載し、画面にスマホと同じUIを表示
10年後には、操作をしなくとも、自動でいろんなことをしてくれる家電が当たり前になっていることもあるだろう。その頃にはスマホを使っていない人が増え始めている可能性もあるだろう。
中国で生体認証普及の前に、QRコード決済が一般化したように、あらゆる家電がスマホ連携をすることがスタンダードになった。
これから急速にスマホ連携のフォーマットが標準化されていくことが考えられるが、何のためにスマホ連携をするのか、その先にどのような生活があるべきなのかを考え、その先に起こることも含めてイメージしておくことが重要だ。
CES2015のオープニングキーノートでSamsungは2020年までにSamsung製の全ての家電をConnected対応すると宣言していたが、2020年を目前にして、まさにあらゆる製品がConnectedしている実態がIFA2019のSamsungブースにあった。
そして家電のConnectedに否定的、ないしは消極的だったメーカーにおいても家電のConnectedは基本機能になりつつある。
今後もSamsungが家電市場をリードするとするなら、2020年にどのような宣言をするのか、今からCES2020への期待が高まる。
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