AIが話し手へ、採用面接官やアナウンサーになる日

単純作業はもちろん、接客や創作活動などの元来「人でなければ」と思われていた分野にも進出し始めているAI。最近では、アナウンサーや企業の採用面接官、ラジオパーソナリティーなどプロの“話し手”として活躍するAIも存在するという。例えば、和歌山県でコミュニティFM放送を行なう特定非営利活動法人、エフエム和歌山が業界に先駆けて人工知能アナウンサー「ナナコ」を導入したことは大きな話題を呼んだ。
今回はこうした、プロの話し手として情報発信に携わっているAIについて見ていこう。
24時間ニュースや災害情報を届ける、疲れ知らずのAIアナウンサー
・災害発生時、5時間休みなしで原稿を読み上げ続けた「ナナコ」
冒頭でも触れた、エフエム和歌山の人工知能アナウンサーナナコ。Amazon Web Service(AWS)の人工知能サービス「Amazon Polly」を用いて制作されたナナコは、2017年7月から現在に至るまで、毎日決まった時間に読売新聞ニュースや天気予報の自動読み上げを行なっている。
災害時の利用も想定されており、実際2017年9月に台風18号が和歌山県を通過した際には、このナナコが19時から24時間までの5時間、日本語と英語の両方で被害情報などを読み上げ続けた。
先に挙げた日々のニュースや天気予報を定められた時間に完全無人で生放送するためのウェブシステムや、24時間災害情報をバイリンガルで放送し続けるソフトウェアは、同局の職員が手作りしてしまったのだというから驚きだ。
実際にナナコによる天気予報を聞いてみたが、かなり自然で違和感も少ない。落ち着いた印象の声なので、災害時の利用にも適していると言えよう(ナナコの“声”にはAmazon Pollyで提供されている日本語の女性音声“Mizuki”が使われている)。
・約10万件のアナウンサーの音声を機械学習、“人間らしい”「荒木ゆい」
昨年11月のβ版リリース時から注目が集まっていたAIアナウンサー「荒木ゆい」。読ませたい原稿を『AIアナウンサー「荒木ゆい」ボイス・プラットフォーム』(略称:「ゆいプラ」)に入力すると、内容を自動で読み上げてくれる。手動で音のピッチや間隔、アクセントの位置を変更したり、読み間違いを修正することも可能だ。

荒木ゆいはSpecteeが開発した人工知能エンジン「Spectee AI」を用いて、約10万件の(生身の)アナウンサーが読み上げたニュース音声を機械学習している。これにより、人に近い自然な発音やアクセント、イントネーションを習得しているのだ。
以下の動画などで実際に音声を聞いてみると分かるが、不自然になりがちな抑揚やアクセントもかなり実際の人間の話し方に近く、合成音声特有の違和感が少ない。
堀江貴文のQ&A「AIは進化している!!」〜vol.972〜
・人気クリエイターを起用、手軽にニュース動画を作成できるソニーの「沢村碧」
共同通信デジタルとソニーによる情報読み上げ動画作成システム「アバターエージェントサービス」のバーチャルアナウンサー、沢村碧(さわむらみどり)。前述の2人(?)と違い、音声のみのサービスではないが、後述のラジオ番組にも出演しているので紹介しておこう。
読み上げさせたい原稿や使いたい画像のほか、動画の背景や沢村碧の衣装、しぐさ等を設定して簡単にニュース番組のような動画を作成できる。
「アバターエージェントサービス 沢村 碧(さわむら みどり)」提供開始
沢村碧の音声データには人気声優の寿美菜子さんの声が、キャラクターデザインには人気アニメ「ソードアートオンライン」のキャラクターデザイン、作画監督の足立慎吾さんが起用されている。若干拙い発音も、ビジュアルありきと考えればそこまで違和感がない。
今後も様々なAIアナウンサー、バーチャルアナウンサーが登場するだろうが、「ありとあらゆるシーンにふさわしい声(話し方)」は存在しない。
ニュースの読み上げ一つとってみても、政治経済やスポーツニュース、災害時の避難情報を全く同じように読み上げる生身のアナウンサーはいないはずだ。アニメ調のビジュアルを受け付けない層もいるだろう。
それぞれの読み上げ能力に差異がなくなった「後」の動きにも注目したい分野だ。
企業の面接もAIが担当! 詳細なレポートも自動で作成
昨今、企業の採用現場や大学のキャリア教育の場で「AI面接官」が導入され始めていることをご存知だろうか。
アキタは2019年卒の新卒採用にタレントアンドアセスメントのAI面接サービス「SHaiN(シャイン)」を本格導入することを発表(2018年卒の新卒採用時に試験導入済)しており、同サービスは帝京大学のキャリアサポートセンターでも試験導入されている。
受験者は専用のスマートフォン用アプリケーションをインストールし、案内メールに記載されている本人確認用URLをタップすると面接が開始される。結果は応募した企業から直接通知される仕組みだ。
さらに、SHaiNはスマートフォンアプリのほか、ソフトバンクロボティクスのロボット「Pepper」専用アプリも用意。これにより、スマートフォンを持っていない層にもSHaiNによる面接を受ける機会を提供している。

SHaiN導入によって企業側が得られるメリットとして、タレントアンドアセスメントは一次面接の効率化や面接官・面接会場不足の解消、交通費や人件費といったコストを削減できる点などを挙げている。
一方、面接を受ける側のメリットとしては地理的・時間的な制限がなくなる点や、全員が公正な評価基準で最後までしっかりとした面接を受けることができる点などが挙げられている。

面接後、SHaiNは「面接評価レポート」と称する候補者の詳細な分析レポートを作成してくれる。公式サイトではこちらのサンプルを見ることができるが、これを面接のたびに人事担当が個々の受験者分作成するのは現実的ではないだろう。このレポートを見るだけでも、企業側のメリットが大きい点は頷ける。
とはいえ(選考フローにもよるだろうが)、実際の社内や企業の人間を直接見る機会が1回分減ることは、受験者にとってデメリットになるはず。
現段階では、AI面接で採用された人材の今後が気になるところだ。
ラジオやイベントの進行をアシスト、選曲までこなすAI
最後に「話し手」のプロが集う場所、ラジオ番組で活躍するAIを紹介する。
・THE FROGMAN SHOW A.I.共存ラジオ好奇心家族:ドッチくん
2017年10月3日より、TBSラジオで火曜から金曜の17時50分から22時まで放送されている同番組のテーマは文字通り「AI」。前述したバーチャルアナウンサー沢村碧も、番組内で天気予報の読み上げや進行の一部を担当している。
番組内には音声AIキャラクター「人工知能犬ドッチくん」が登場。ドッチくんは日々リスナーの疑問や質問に答える(=リスナーやパーソナリティーとコミュニケーションをとる)ことで成長し、徐々にスムーズな応対ができるようになっているのだ。
ドッチくんに用いられているJetrunテクノロジの自然対話AIプラットフォームはシャープのロボット携帯電話「RoBoHoN(ロボホン)」などにも採用されている。また、音声にはエーアイの音声合成エンジン「AITalk」を使用している。
さらに同番組では、ラジオ番組では欠かせない「選曲」をAIが行なうコーナーも設けられている。こちらにはソケッツのAI選曲システム「Life’s Radio」が用いられている。

・INNOVATION WORLD:Tommy
J-WAVEで毎週金曜22時~22時55分に放送されている同番組には、2017年8月25日放送分より「Tommy(トミー)」と名付けられたAIアシスタントが登場し、以来レギュラー出演している。
TommyはIBMのAI「Watson」を使い、J-WAVEと日本IBMの共同で作られたラジオAIアシスタント。番組ゲストのSNSや過去の取材記事、作品などのデータを収集してゲストの性格診断を行なうほか、選曲やジングルなども担当している。
また、Tommyは2月28日に行なわれた番組イベント「J-WAVE INNOVATION WORLD COMPLEX vol.1 ~AIを知る・AIを体験する~」ではイベントのMCを務めるなど、ラジオ以外にも活躍の場を広げている。
今はまだ、エンターテイメントの一つとしてAIの拙さを面白がりながら、使い方を模索する段階なのかもしれない。しかし荒木ゆいの発音の滑らかさ等は、そろそろ人間の代わりを任せても良いのではないかと思わせてくれる。
スマートスピーカーやオーディオブックなど音声での情報収集に注目が集まる今、これらの技術をプロモーション等に使いたいという企業は多いだろう。ニーズに上手くはまれば、ナナコのように毎日1人で立派に業務をこなせるAIも次々に出てくるはず。
生身の「話し手のプロ」は今後、これまで以上に自分だけの強みを磨くだけでなく、AIとの違いを分かりやすく市場にアピールする能力も求められることになりそうだ。
●参考
・和歌山のラジオ局 Banana FM|エフエム和歌山
https://877.fm/
・AIアナウンサー「荒木ゆい」ボイス・プラットフォーム(ゆいプラ)
https://www.ai-announcer.com/
・バーチャルアナウンサー「沢村碧(さわむら みどり)」が読み上げる アバターエージェントサービス
http://avataragentservice.jp/
・SHaiN
https://www.taleasse.co.jp/shain/
・THEFROGMANSHOWA.I.共存ラジオ好奇心家族
https://www.tbsradio.jp/kazoku/
・INNOVATION WORLD
http://www.j-wave.co.jp/original/innovationworld/
IoT Today
http://iottoday.jp/