温故知新、「IoTの土間」を目指す将来の家とは

「不動産活用のためのIoT。高性能な後付け型スマートロック」という記事で以前紹介したライナフが、宅配や家事代行サービスを提供する5つの事業会社と提携し「サービスが入ってくる家プロジェクト」を立ち上げた。
同プロジェクト立ち上げの背景には「昨今の家族形態の変化」がある。これまで多数を占めていた夫婦と子供から構成される家族3~4人の「標準世帯」は減少傾向にある。さらに男性も女性も晩婚化が進んでおり、その結果「単身世帯」が最も高い割合を占めるようになってきた。
また結婚したとしても、夫婦共働きであえて子供を作らない「DINKs(ディンクス)」世帯も増加傾向にある。こうした変化によって、これまでの家の形から、変化に対応できる家が必要になってきたというわけだ。
昼間に自宅に誰もいないことによるデメリット
単身者や共働き世帯では昼間家に誰もいないため、書留郵便や宅配の受け取りが困難だ。
家族の誰かが家にいるのであれば、当然こうした問題は発生しない。ネット通販で購入した商品を受け取るために会社を早めに出たり、帰ってきてから不在票を見つけて再配達を頼んだりする必要もない。
このように昼間自宅に誰もいない家にまつわる課題を解決するひとつの手段が「サービスが入ってくる家プロジェクト」ということになる。
IoTを取り込むとサービスがどう変わる?
ライナフ 代表取締役社長の滝沢潔氏(以下、滝沢氏)によると「今後の日本社会に求められる“住まいのカタチ”は、これまで“広さ”や“機能”といったハード面が重視されていたものから“ITを駆使”し“より柔軟にサービスが利用できる”ようなソフト面が充実した住まいへと大きく変化すると考え、今回のプロジェクトの立ち上げに至った」という。

プロジェクトでは、同社のスマートロック「Ninja Lock」やオートエントランス解錠システム「Ninja Entrance」などのIoT製品を活用し、宅配や家事代行サービスを提供する5つの事業会社と提携することで、これまでにないサービスを提供することが可能になるという。
例えば「Ninja Lock」があれば、物理的なカギのやり取りをする必要がない。サービス担当者は、カギの機能を持つスマホを与えられ、それを使って家の出入りができる。
また、出入り状況の把握に関しても、サービスを依頼した側が自分のスマホ経由でアプリ上から自宅への出入りを確認できる。サービスを頼んでもいないのに入室のアラートが出れば、即座に不法侵入であると判断できるため、空き巣等の対応も迅速に行える。
つまり、「サービスが入ってくる家」とは「宅配や家事代行などの各種サービスがIoT経由で自宅に入ってくること」である。
昔ながらの土間をIoTで実現
滝沢氏はプレゼンのなかで、同社が提案する将来の家は「土間」であると表現した。土間は古い民家などでよく見られるが、戸外と屋内の中間に位置する特別な場所だ。
昔の日本では、米屋や八百屋などの御用聞きが土間までやってきて注文を聞き、もし、タイミングが悪く家人が不在のときでも米や野菜を土間に勝手に置いて帰って行ったものだ。
現代社会では、土間は存在しなくなり、玄関口が土間の役割を兼用している。滝沢氏によると、土間という古き良き日本の文化を、同社の技術と、提携先のサービス事業者と共に便利に活用していくというのだ。
IoTの力を借りて、現代版土間を作るというわけだ。

プロジェクトの第一弾として東京都大田区の賃貸マンション「ジニア大森西」では、共有エントランス部を土間に見立てオートエントランス解錠システム「Ninja Entrance」を、36室の全ての居室にスマートロック「Ninja Lock」を設置する。
専用のコールセンターが、電話による各事業者のサービススタッフの本人確認と、インターネットを経由した鍵の開閉操作を遠隔で行なうことで不正にマンションに侵入されないようにしている。
セキュリティ対策はどうなのか?
IoTを導入したら、セキュリティが低くなってしまったというのでは困る。「Ninja Lock」では専用アプリをスマホに導入することで、玄関ドアを開閉した履歴を随時確認することができる。
さらに玄関部の人の出入りの動きを撮影し、スマートフォンアプリから確認できるクラウドカメラ「Safie(セーフィー)」と、錠前付きの室内扉を設置することで、居室不在時のセキュリティをより強固にしているという。

入居者不在でも各種サービスが受けられる
発表会では、ライナフと提携する5つの事業者、具体的には荷物の宅配や家事代行などの各種宅配サービスを提供する事業者、それらの代表が一堂に会し、それぞれが提供するサービスについて解説した。
入居者が不在時に目や耳となるクラウドカメラ「Safie」
ライナフと共にセキュリティの一役を担うのがセーフィーだ。同社のサービスであるクラウドカメラ「Safie」を提供することで、いつでも家を“見える化”できる。
「導入したいサービスがあったときに自分がいないという不安を払拭できるサービスです。予約した時間にサービスの人が来てドアが開いたというのが通知によりスマートフォンで確認できます。より便利に安心安全にサービスを自宅に入れられることで、このプロジェクトに貢献できると考えています」とセーフィーCMOの小室秀明氏。

安心で安全な食材が不在時に届くパルシステム
生協(COOP=コープ)の宅配サービスを提供するのが、生活協同組合パルシステム東京だ。サービスが入ってくる家プロジェクトでは入居者が不在時でも、安心安全な食材が届けられる仕組みを提供する。
「本プロジェクトで大きく3つの効果が期待できます。再配達問題の解消、配達担当者の残業削減効果、利用する組合員の不満の低減です。すべての住まいで導入されれば、組合員の利用満足度の向上だけでなく、配達担当の問題も解消することができます」とは、生活協同組合パルシステム 東京事業運営部部長の小林秀信氏の弁。

クリーニングした商品が不在時でも届く「Lenet」
スマホを使って自宅に居ながらクリーニングした衣類を受け取れるというのが、ホワイトプラスの「Lenet」というサービスだ。
「共働き世帯は1000万世帯を越えて増えています。忙しい方がたくさんいらっしゃる中で、クリーニングサービスを利用できない方がいます。今回のプロジェクトで、こうした問題を解決する新しい解になるのではないかと期待しています」(ホワイトプラス 代表取締役社長 井下孝之氏)。

買い物を代行して不在時に配達「honestbee」
地域密着型のオンライン買い物代行サービスを提供するのがhonestbeeだ。ちなみにhonestbeeという言葉は「正直な働き蜂」という意味で、メイド大国のシンガポールで生まれたサービスで、東南アジア8か国で事業を展開している。
同社はコストコとも提携しており、会員でなくても商品が自宅に届くことで好評を得ている。
「住まいの地域の半径5km以内の店舗がアプリ上で見られるようになっていて、アプリで買物した商品が指定の時間に手元に届くサービスです。アボカド、食べ頃、柔らかめ、といった細かいコメントを入れると、ショッパーという買物担当が対応してくれます」(honestbee Country Manager宮内秀明氏)

ニーズに合うハウスキーパーが見つかる「家事代行マッチングサービス」
家事代行マッチングサービスがタスカジだ。同社のサービスは家事の経験を活かして働きたい人「タスカジさん」と、家事をお願いしたい人とを繋ぐマッチングサービス。
タスカジ 代表取締役社長の和田幸子氏は「ようやく念願がかなったドリームプロジェクトだと捉えています。普通のサラリーマン家庭でも利用できるリーズナブルな金額、登録しているハウスキーバーは事務局の3段階チェックをパスした安心できる人、登録しているハウスキーバーさんが多様であること、この3点が特徴となります。自分のニーズに合ったハウスキーパーと出会うことができるサービスとなっています」とのこと。

家事を代行するスタッフを派遣「ベアーズ」
家事を代行するスタッフを派遣するサービスを提供するのがベアーズだ。家事代行サービスを“日本の暮らしの新しいインフラとする”を合言葉に、事業を展開している。
「サービスを利用している方の半分以上は不在宅の方で、鍵をお預かりするというのは、落としたりしないかと、スタッフにとってもプレッシャーとなっています。ところが鍵を持たない状態で家に入れるというのは、スタッフにとっても気が楽になります。カメラも付いているので、いつどこで作業したのか、何時に入ったのかが正確にわかるので、お客様の心のモヤモヤを取り払えるというところで素晴らしいと思います」とベアーズ マーケティング部部長の後藤晃氏。

あれ? 競合するサービスがある?
ここでひとつ素朴な疑問が出てきた。タスカジとベアーズは、どちらも家事代行という分類に入るため、競合するのでは? という点だ。利用者は、どのように区別すればよいのだろう?
タスカジ和田氏によると「ビジネスモデルが異なるということです。シェアリングエコノミーのかたちをとっていますので、家事の仕事をしたい個人の方と、家事をお願いしたい個人の方がインターネット上で出会って取引できるという、そういう場所をご提供しております」とのことだ。Airbnbやメルカリ、ヤフオクのようにCtoCのビジネスモデルになっている。
一方ベアーズのビジネスモデルはBtoCとなっている。「タスカジさんと違うところは、スタッフを自前で採用して研修を行ない、派遣をするモデルを展開しているところです」と後藤氏。
一般の人が家事代行をするのがタスカジで、専門に訓練された人が家事代行するのがベアーズというわけだ。

今後の展開と課題は?
同プロジェクトに含まれるサービスをより充実させていくためには、サービスを提供する提携先企業を現在の5社からもっと増やしていく必要がある。
その点についてライナフ代表取締役社長の滝沢氏は、どのように考えているのだろう?
「一棟目(ジニア大森西)をやっていくことで、いろいろな課題が出てくると思っています。最初から多くの企業様と提携すると、運営のノウハウが作れない懸念もあります。そういう意味で、先進的な企業様にご協力いただいて、しっかりと運営のフローや課題点が見えてきたタイミングで、他のサービスの会社様と提携を増やしていく予定です」(滝沢氏)。
今回は新築の賃貸マンションに最初から導入する形をとったが、新築の分譲マンションや戸建てに向けて展開は考えているのだろうか? また、既存物件への後付けとしてのサービス展開も気になる。
「賃貸が一番入りやすいですが、分譲のニーズも多く、新しい分譲のコンセプトにしたいというお話もあります。使いたくない方はカメラを外したり、電源を抜いたりすればよい話です。既存の物件にも、大規模改修をするときに一緒に入れてみようかという話があります。戸建てについても、ゆくゆくは広がっていくと確信しています」と滝沢氏。

以上が「サービスが入ってくる家プロジェクト」の概要だ。IoTを駆使し、併せて各種サービスを組み合わせることで、入居者は生活の質を向上させることができるというわけだ。
例えば女性やお年寄りにとって重たい荷物や大量に買い込んだ食材を自室まで運び上げてくれるのは、既存の宅配ボックスにはないメリットだ。玄関先の靴棚の下に小型の冷蔵庫を設置すれば、食事や生鮮食品のデリバリーも受け取ることができる。
こうしたシステムは、既存の物件に導入可能なものなので、不動産価値を向上させたいオーナーにとっても魅力があるだろう。コスト面さえクリアできれば、大きな広がりを見せる可能性があるプロジェクトだ。今後の展開に大いに期待したい。
IoT Today
http://iottoday.jp/