2018-03-19

CES 2018で爪痕を残した「リアルの逆襲」

CES 2018におけるBMWの野外ブース。(筆者撮影、以下同様)

 世界に冠たるグローバル企業の経営トップが記者会見や基調講演に相次いで登壇し、「なりわい」革新を宣言したCES 2018。

 IoTによる破壊的イノベーションが加速することで「近未来の生活体験」が部分的にではあるものの、一段とリアリティを持ち始めたことについては、この1月と2月の寄稿でお伝えした通りである。

【参考】
企業トップが『なりわい』革新を唱えたCES 2018
CES 2018で見たコネクテッドな生活の近未来

 しかしながら、テクノロジー主導の進化に対するアンチテーゼとしてCES 2018の期間中、「リアルの逆襲」を強く印象付ける出来事にも偶然に触れ、否応なく考えさせられる機会が多かったこともまた事実である。

 CES2018レポートの締めくくりとして、今回はこのビッグイベント周辺で実感した「積み残された課題」についてお伝えしたい。

度肝を抜かれたBMWの「究極のドライビング体験」

 “THE ULTIMATE DRIVING EXPERIENCE”(究極のドライビング体験)。

 CES 2018のメイン会場となるラスベガス・コンベンション・センター(LVCC)に今回初めて足を踏み入れた来場者は例外なく仰天したに違いない。

 会場のメイン導線にある野球場くらいの広さの駐車場を、BMWが借り切って派手なイベントを展開している。

 シャンパン・ゴールドに塗装されたBMW M3に来場者が乗り込んだ1秒後。クルマはフルスロットルで急加速、ドリフトとスラロームを執拗に繰り返し、タイヤがアスファルトの路面を擦り付けるスキッド音と濛々たる白煙を残して疾走する。

 それも1台ではなく、常時数台のBMW M3が間髪をおかず、ストップ&ゴーを繰り返しているのだ。

【参考】The Ultimate Driving Experience @ CES 2018

 著者は最初、BMWの最新の自動運転車のデモ走行か、と早合点した。しかし、ちょっと待った・・・。この過激すぎるスポーツ走行は、自動運転に要求される安心・安全の理念とあまりにもかけ離れすぎているのではないか。

 実際、イベント会場に入って行って観察すると、クルマは有人運転らしい。ハンドルを握っているのはAIロボットではなく、正真正銘、生身のプロドライバー達だった。

 つまり、BMWがロイヤルユーザーを対象にして世界各地のレース場で定期的に実施していた「BMWサーキットデイ」(著者も、幸運にも10年ほど前に、富士スピードウェイのショートコースに招待され体験したことがある)のメニューの一部を、わざわざCESの会場に持ち込んでいるらしい、という推理に落ち着いた。

自動運転全盛の時代にBMWが守り抜きたいのは「駆けぬける歓び」

 その後、会場を回りながら、思いを巡らせた。

 自動運転が百花繚乱の中、BMWはなぜかくも「確信犯的に」(批判を受けるリスクがあるのを承知で)極端なリアルイベントを仕込んだのか。

 BMWは、なぜメイン会場で目立った展示をしていないのか(インテルのブースには、昨年買収したモービルアイ社が開発中のBMW7シリーズの自動運転車が展示されていたが・・・)。

 ここから先は、全く著者の勝手な解釈である。

 BMWが今後、何より守り抜きたいと考えているのは、おそらくブランドが持つ「プレミアム価値」なのではないか。

 CES 2018での自動車市場の将来に対する論調は、「AIクラウド>モノ」としてのクルマの経済価値だったり、シェアリングエコノミーの進展でEV化・白物化が進む姿だったり、商売の視点では自動車製造業にとっては悲観的な近未来だろう。

 一方でBMWは過去50年間以上、「駆けぬける歓び」(“Sheer Driving Pleasure”、米国では“The Ultimate Driving Machine”)というブランドビジョンを堅持し続けた。

 つまり、自らのブランドのプレミアム性はお客さまがクルマを操る際に実感する「心踊る、エモーショナルな体験価値」を源泉としていることを、企業の「生きる道」として心に刻みつけているのであろう。

 CES 2018の展示では、例えばメルセデス・ベンツのブースに置かれていたsmart(スマート)のように、ハンドルも制動装置もない自動運転車が目立った。

メルセデス・ベンツのsmartの完全自動運転車。ハンドルも制動装置も付いていないことに注目。

 合理的に判断すれば、AIクラウドがクルマを完全に導く自動運転では、そうなるべきだと考えるのが自然な流れだろう。

 しかし、先ほどのBMWのブランド文脈からいえば、BMWは決してハンドルや制動装置のない自動運転車は生産しないだろうし、お客さまがその気になれば「駆けぬける歓び」を実感するような激しいスポーツ走行を(デジタルデバイスによる安全性のアシストがなされた条件下で)可能にするのではないだろうか。

 BMWのこの打ち出しは、お客さまや自動車業界に対する強烈な(ある意味、抗議の)メッセージだ、と解釈するとすんなりと腹落ちした。

 自動運転によって、安全や安心という価値と引き換えに、クルマが持つ本質的な魅力のうち、最もセクシーな部分の資産を捨て去ってはならない、という警鐘という意味で。

圧巻だったインテルによる「完全ライブ」のドローンショー

 ラスベガスの目抜き通り・ストリップの核心部に位置するベラージオホテルといえば、毎晩、ホテル正面の巨大な人工池で繰り広げられる噴水ショーで知られている。

 音楽とイルミネーションにシンクロして、年間降水量わずか100mmの砂漠の街に高らかに噴水が吹き上がる。

 それだけでも十分に「So Amazing!」なのだが、今年はさらなるサプライズがあった。

 インテルのLED搭載ドローンシステム「Intel Shooting Star」250機による、ベラージオホテルとのコラボレーションである*1

*1:ドローンショーは、インテルの基調講演が行われた1月8日(月)の夜を皮切りに、1月11日(木)まで一晩に2回ずつ行われた。

 ノルウェーが生んだ世界的DJ・Kygo(カイゴ)の楽曲「Stargazing」(星を見上げて、というくらいの意味)を、アメリカ人のシンガー・Justin Jesso(ジャスティン・ジェッソ)が甘く、切なく歌声で歌い上げる。

 主役のドローンの大編隊は「愛があれば何でもできる、どんなことでも乗り越えていける」という曲のメッセージに乗せて、まさに噴水とイルミネーションがお膳立てをする人工池の上空で、ひし形、花形、プリン型などさまざまに形を変え、カラフルに明滅を繰り返す。

【参考】CES 2018 Intel Drone Light Show

 実は、インテルの基調講演の最後の方でも、会場を舞う約100台のドローン(1台のドローンは直径30cmほどに過ぎない)によるショーの予告編のようなデモが行われていた。

 インテルの3Dアニメーションソフトの技術を使い、たった1人のオペレーターの操作で大編隊をコントロールできることが、デモのアピールポイントだった。

 今回、インテルのドローンショーが大きなインパクトを残した理由は、それが天候の急変や電波障害などのリスクを想定した上での、大都市上空で行われた(おそらく初の冒険的な)「ライブイベント」だったからである。

 2017年のスーパーボウル・レディガガのハーフタイムショー、今年2月の平昌オリンピック開会式でもインテルによって同様の演出が行われたが、両者はともに事前録画であり、さほど話題にはなっていない。

シルク・ド・ソレイユの「O」から学ぶ、リアル世界での「失敗」の意味

 ところでベラージオホテルといえば、シルク・ド・ソレイユ(太陽のサーカス団)の人気演目「O」(フランス語で水を意味するEauからの着想)が行われていることでも知られている。

 シーンごとに広さや水深が変幻自在に変わるプールの上で、生身のサーカス団員による、文字通り身体を張ったパフォーマンスが繰り広げられる。

シルク・ド・ソレイユ「O」はCES期間中も相変わらず盛況だった。

 CESの時期のラスベガスは、世界中からの来場者約18万人が観光客を押し出すような形で街を占拠する格好になるので、一番人気の演目といえども劇場には空席が目立つのでは、と予想したが甘かった。

 そこそこの席でも170ドル前後という、決して安くはない入場料の設定ながら、19時からのショーは満員御礼だった。

 シルク・ド・ソレイユは、才能のあるパフォーマーを全世界から選抜するだけでなく、究極の演技のために厳しいトレーニングを課すことで定評がある。

 とはいうものの、ショー自体が掛け値なしのリアルイベントである以上、観客は必ず一度ならず明らかな失敗(今回も難易度の高い空中ブランコで落下)を目撃することになる。

 しかしどうだろう。1時間半のショーが終了すると、会場のスタンディングオベーションがしばらく鳴りやむことはなかった。

 ステージと客席の一体感、期待や想像をはるかに超えた、感動的な体験に巡り会えたという気持ちの高まりが、居合わせたすべての観客を魅了した。その瞬間に立ち会えたのは幸運だった。

 リアルの世界では、「本気の失敗」もまた、完璧な演技とともに人間を引きつける巧みな演出の一部なのだ。

道具立ては揃った。しかしセレンディピティが足りない

 これからのIoT時代を考える上で、データのセキュリティと並んで、いやむしろそれ以上に大切なのは「セレンディピティ」だろう、と思う。

 すなわち、「偶然に出会った、思いがけない幸運」。

 ラスベガスで過ごした1週間の中で、東京での日常の中では味わうことができない「セレンディピティ」を感じてハッピーな気持ちになったのは、皮肉にもCES会場の建物の中ではなく、外のスペースで起きた体験においてだった。

 IoTはお客さまからさまざまなデータを収集・統合・解析して、「お客さまの近未来の体験の予測と改善提案」というサービスに加工して提供する。

 しかし、気をつけなくてはならないのは、データのタイプが数値データであれ、画像解析データであれ、あくまでもAIが解析する対象はセンサーが捕捉できるデータに限られるということだ。

 お客さまの漠然としたインサイトや心の奥に秘めた想いにも寄り添い、お客さまを「インスパイヤ」したり「エンパワー」したりするサービスを提供できなければ、ディライトポイントも、ペインポイント*2もない、「予定調和な日常体験の断片が社会レベルで大量生産される」という愚に陥ってしまうに違いない。

*2:ディライトポイントは、お客さまがWOWと感じるうれしい体験。ペインポイントは、逆に失望したりイライラしたりする嫌な体験のこと。

 リアルの世界を司り、その生態系の頂点に君臨するのは、紛れもなく人間である。VRやARの技術を駆使しても到達できない、「人間ならではの提案や価値の提供」を統括する責任を持つのは、他でもない人間自身であろう。

 人間とAIがそれぞれの役割を明確に意識することを前提として、人間はリアルの世界で散在する「セレンディピティ」の要素をいかにお客さまの日常体験に組み込んだ形でサービスをデザインできるか。

 CES 2018はそういった問題提起や気づきにつながるリアルの事象が、浅くない爪痕を残して閉幕した。

 人間の心の動きを科学する研究は、急速に進展するAIの開発に比べると見劣りがする。

 IoT時代にコミットするコミュニティの一員として、私たちはお客さまである人間の気持ちの変化に寄り添い、いかに豊かな日常体験を提供すべきか、という重要なテーマを科学するアプローチも忘れてはならないだろう。

記事提供元

IoT Today
http://iottoday.jp/

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